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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)28号 判決 1991年3月28日

控訴人 北大阪エルピーガス小売販売協同組合

被控訴人 近畿通商産業局長

代理人 小見山進 北川直彦 ほか七名

主文

一  原判決中控訴人の簡易ガス事業許可処分を求める訴えに関する部分につき、控訴人の控訴を棄却する。

二  原判決中控訴人の簡易ガス事業不許可処分取消しの訴えに関する部分を取り消し、控訴人の右部分の訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和六二年八月二〇日付で大阪府営岸辺住宅(現在は「大阪府営吹田岸部住宅」と改称)についてした簡易ガス事業不許可処分(六二大公第一七七六号)を取り消す。

3  被控訴人は、控訴人が大阪府営吹田岸部住宅に係る簡易ガス事業を営むことを許可せよ。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表三行目冒頭の「(」の次に「現在は、大阪府営吹田岸部住宅と改称されているが、」を加える。

二  同一一枚目裏八行目から同一二枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「(一) 控訴人の許可申請に係るガス供給の相手方の欠缺について

法二条三項による簡易ガス事業を営もうとする場合には、法三七条の二により通商産業局長の許可が必要と定められている。また、この簡易ガス事業の許可申請については、供給の相手方が必要であり、事業の具体性を欠く申請についてはそもそも許可をするか否かの判断をすることができず、許可を求める実態がないものとして却下せざるを得ないこととされている(ガス事業法施行規則五七条二項九号は、供給の相手方との契約書の写しを簡易ガス事業許可申請の添付書類としている。)。

ところで、大阪府は、昭和六二年九月二日付をもつて、控訴人に対する岸辺住宅一二四戸及び集会所、処理場の一二六地点への簡易ガス事業によるガスの供給依頼を取り消し、同年一〇月二九日付をもつて、大阪瓦斯に対し岸辺住宅に関する同一の供給地点に関し一般ガスの供給依頼を行い、大阪瓦斯は、右供給依頼に基づき、岸辺住宅に一般ガスを供給するための工事を平成二年三月に完了し、平成二年一一月一〇日時点において岸辺住宅全一二四戸に入居を完了した全入居者から一般ガスの供給申込みを受けて、既に一般ガスの供給を行つている(なお、同住宅の集会所についても、自治会より供給申込みを受け、大阪瓦斯が一般ガスの供給を行つている。)。

してみれば、この時点において、大阪府が、大阪瓦斯に対する供給依頼を取り消して、改めて控訴人に対し岸辺住宅に対する簡易ガス事業によるガス供給の依頼をなす可能性は全くないといわざるを得ない。以下、その理由を明らかにする。

(1)  一般に、ガス供給の依頼をなす場合には、「ガスの使用をしたい」旨の意思表示と共に、「そのために必要なガス工事を行つてもらいたい」旨の意思を含んでおり、通常の場合には、工事の申込みとガス使用の申込みが一体としてなされている。しかしながら、建築業者・賃貸用建物の所有者等は、自己自身のガスの使用は予定していないけれども、当該建物の購入者・賃借人のガス使用のためのガス供給工事を申し込んでくる場合がある。一般的には、ガス事業者は「ガスの使用」をする者のみに対してガス工事を行えばよいのであるが、前記建築業者・賃貸用建物の所有者等が建物の建築を行う際に同時にガス供給のための設備・工事を行う必要があることを考慮して、このような建築業者・賃貸用建物の所有者等のガス工事の依頼の場合には、ガスの使用者として扱い、これらの者に対するガス工事をしなければならないものとされている(大阪瓦斯のガス供給規程実施細則4によれば、「建築業者、宅地造成業者、住宅・都市整備公団、住宅供給公社等(以下「建築業者等」といいます。)が申込みを行つた場合には、それら建築業者等を使用者として取り扱います。」と規定している(<証拠略>)。)。そして、当該建築中の建物が完成した後、入居者がガスの使用を望む場合には、改めてガス事業者に対してガス使用の申込みをなすこととなる。したがつて、建築業者による建売りの建物・賃貸用建物のガス供給の申込みは、当初のガス工事の申込みと現実の入居者のガス使用の申込みの二段階から構成されている。

(2)  しかして、大阪府は、岸辺住宅の建替え工事に際し、当初、控訴人にガス供給の依頼をなしているが、このガス供給依頼の法的性格は、現実にガスの使用をなそうとする者としてのガス供給依頼ではなく、岸辺住宅に対するガス工事の依頼なのであり、現実のガス使用の申込みは後の入居者によつてなされることが予定されていたのである。

(3)  ところで、本件においては、前述したごとく、大阪府は控訴人に対するガス供給依頼を取り消し、岸辺住宅に対するガス工事は大阪瓦斯が行い、当該工事は既に完了しているのであつて、大阪府が当該工事の取消しをなすことは法律的にみてもあり得ない。したがつて、大阪府が岸辺住宅に対するガス工事を再度控訴人に依頼することは、法律的にも現実的にもあり得ないといわねばならない。

更に重要な点は、岸辺住宅においては既に全戸にわたり入居者が生活を開始し、その全入居者が大阪瓦斯による一般ガスの供給を受けていること(これらの全入居者が一般ガス使用の選択を既になし、簡易ガス事業者による簡易ガスの供給を希望しているものでないことも明らかである。)である。このような時点以降においては、大阪府は、もはや、控訴人に対して一般ガスではなく簡易ガス用の工事を改めて依頼する権限を有しているわけではなく、もとより、現実の入居者に代わり簡易ガス使用の申込みをなす権限があるわけではない。

ところで、取消訴訟における訴えの利益は「具体的な四囲の状況という客観面に着目し、そのような状況に照らし抗告訴訟を提起し、あるいはこれを維持する実益があるかどうか」に関わるものであり、取消しが無意味となつたときは訴えの利益は消滅するというべきところ、控訴人の本件簡易ガス事業の許可申請は、現時点においては、供給の相手方を欠く申請となつており、本件不許可処分が取り消されても、控訴人はその申請に係る処分を求めることができないことは、前述のとおりであるから、本件不許可処分の取消しを求める法律上の利益を欠くものといわねばならない。

(二) 原状回復の不可能性について

一般に、処分取消しの訴えは、行政庁の処分によつて生じた違法な状態を除去し、もつて国民の権利・利益の保護救済を図ることを目的とするものであるから、違法状態を原状に回復することが法律上もしくは事実上不可能とみるべき事態が生じた場合には、もはや処分を取り消してみても、違法状態を除去することができず、国民の権利・利益の保護救済に資することができないことに帰するから当該処分を取り消すべき実益がなく、訴えの利益はないものというべきであるところ、本件不許可処分によつて違法な状態というものが生じたか否かの点はさておき、次に述べるような現状では、原状回復によつて予測される社会的・経済的損失、原状回復のための工事が岸辺住宅の入居者及びその付近住民に及ぼす新たな物理的・精神的影響を考慮すると、社会通念に照らし原状回復は不可能といわざるを得ないから、本件不許可処分の取消しを求める訴えの利益はないものといわねばならない。

(1)  現在、大阪瓦斯は、岸辺住宅へ供給するために敷設されたガス本支管を更に延長し、当該住宅の周辺の住宅一三戸へ一般ガスを供給しているほか、付近住民から六件の供給申込みを受けており、供給の準備作業中である。右ガス本支管は、既に岸辺住宅以外の使用者へのガス供給にも使用され、撤去不可能である。

(2)  現在、岸辺住宅の入居者の所有するガス器具及び集会所で使用されているガス器具は、全て一般ガス仕様となつている。ガスの種類は、一般ガスは天然ガスを使用し、簡易ガスはLPガスを使用しており、両者は異なつているため、一般ガス供給を簡易ガス供給とするには入居者の所有する全てのガス器具の燃焼部分の調整・交換等が必要である。これは、入居者に新たな負担を強いることとなる。

(3)  現在、岸辺住宅の用地は全て何らかの用途に使用されているから、同住宅を簡易ガス供給とするには、特定製造所(ボンベハウス)設置のための用地の確保、建物と右特定製造所との配管工事等が必要であり、このために例えば現に駐車場や公園等に使用している用地を使用すると、入居者に不利益を強いることとなる。

(4)  岸辺住宅は、前述のように平成二年一一月二〇日現在一二四戸全てが入居し、生活に必需のエネルギーとして一般ガスの供給を受けているのであるから、たとえ短期間であつてもその供給を止めることは社会生活に与える影響は非常に大きい。もし岸辺住宅のガス工事を原状に回復し、一般ガスの供給を中止するとすれば、現在入居者がある以上、速やかに替わりのガスを供給する必要があるが、前記(一)に述べたように、簡易ガス事業とすることは申請が供給の相手方を欠いていることから不可能であり、事実上一般ガスの供給を止めることはできない。」

三  原判決一二枚目表七行目の「頁参照。」の次に「なお後記控訴人援用の東京一二チヤンネル事件の最高裁判決は、受益処分を得られなかつた者は、他の競願者の得た当の受益処分のみならず、自己に対する拒否処分も争い得る旨を判示したに過ぎず、取消しがもはや無意味となつた場合についても、なお訴えの利益があるとしたものではない。」を加える。

四  同一五枚目表六行目と七行目の間に次のとおり挿入する。

「(三) 被控訴人援用の最高裁判決は、参加を予定していた行事が終了してしまつた事案であり、そのほか、従来、判例上、訴えの利益の消滅が肯定されたものは、申請にかかる期間が経過してしまつたなど、その事由が外形上も明白な場合に限られている。本件で問題となつているのは、大阪府が大阪瓦斯に対する供給申込みを取り消して、再び控訴人に簡易ガス供給を依頼することが絶無か否かであり、これは外形上明白な問題ではないし、全くあり得ないことではない。因に、最高裁判所昭和四三年一二月二四日判決(東京一二チヤンネル事件)は、競願者甲の免許申請が拒否され、乙に免許が付与された事案において、甲が、乙に対する免許処分の取消しを求めず、自己に対する拒否処分のみの取消しを訴求する場合であつても、再審の結果によつては、乙に対する免許を取り消し、甲に対し免許を付与することもありうることを理由に、その訴えの利益を肯定しているのであり、本件においても、大阪府の大阪瓦斯に対するガス供給依頼は、「本件不許可処分に伴い、都市ガスで供給することとした」というのであるから(<証拠略>)、簡易ガスと都市ガスとが二律背反、いわば競願関係にあるのであり、本件不許可処分が取り消されれば、決定前の白紙の状態に立ち返るものというべきである。」

第三証拠 <略>

理由

一  大阪府は、岸辺住宅を建て替えることを決定し、右建替えに当たり、同住宅に対するガス体エネルギー供給を簡易ガス事業によるものとし、控訴人に対し、昭和六二年四月二七日付で、岸辺住宅内の住宅一二四戸及び集会所、処理場の一二六地点への簡易ガス事業によるガスの供給の依頼をなし、これに基づいて、控訴人は、同年六月一九日、簡易ガス事業の許可を受けるため、被控訴人に対し、本件申請をしたが、被控訴人は、本件申請は法三七条の四第一項三号及び四号に定める許可基準に不適合であるとして同年八月二〇日付で本件不許可処分をしたこと、その後、大阪府は、同年九月二日付で控訴人に対する岸辺住宅への簡易ガス事業によるガスの供給依頼を取り消し、同年一〇月二九日付をもつて、大阪瓦斯に対し、前記岸辺住宅に関する同一の供給地点に関し一般ガスの供給依頼を行つたこと、そこで、控訴人は、同年九月八日、通商産業大臣に審査請求をしたが、同大臣は、昭和六三年二月八日、右審査請求を棄却する旨の裁決をしたことは、当事者間に争いがない。

二  ところで、被控訴人は、まず、控訴人の本件不許可処分の取消しの訴えは、行政事件訴訟法九条に定める法律上の利益を欠くに至つたものであり、却下されるべきであると主張するので検討するに、<証拠略>によると、大阪瓦斯は、前記ガス供給依頼に基づき、岸辺住宅に一般ガスを供給するための工事を平成二年三月に完了し、平成二年一一月一〇日時点において岸辺住宅全一二四戸に入居を完了した全入居者から一般ガスの供給申込みを受けて、既に一般ガスの供給を行つている(なお、同住宅の集会所についても、自治会より供給申込みを受け、大阪瓦斯が一般ガスの供給を行つている。)ことが認められる。

前記一の事実及び右認定に係る状況に照らすと、控訴人の本件簡易ガス事業の許可申請は、現時点においては、供給の相手方を欠く申請となつており、本件不許可処分が取り消されても、その状態が解消される訳ではなく(本件不許可処分の取消しは、大阪府に対し、大阪瓦斯に対する供給依頼を取り消し、控訴人に対する供給依頼の取消しを取り消(撤回)すべき義務を生ぜしめるものではなく、また当然に控訴人の供給の相手方として、大阪府が復活するものでもない)、控訴人はその申請に係る処分を求めることができないことは、被控訴人の前記主張二(一)のとおりであり、また、原状回復によつて予測される社会的・経済的損失、原状回復のための工事が岸辺住宅の入居者及びその付近住民に及ぼす新たな物理的・精神的影響(その内容は、被控訴人の前記主張二(二)(1)ないし(4)のとおりであつて、右認定に係る状況及び<証拠略>により推認できる。)をも加え考慮すると、将来、大阪府が、大阪瓦斯に対する供給依頼を取り消して、改めて控訴人に対し岸辺住宅に対する簡易ガス事業によるガス供給の依頼をなす可能性はもはや全くないといわざるを得ない。

してみれば、本件不許可処分の取消しを求める法律上の利益を欠くものといわねばならず(控訴人援用の東京一二チヤンネル事件の最高裁判決は、甲と乙とが競願関係にあり、被告行政庁は、甲、乙の両申請を比較し、その優位にある方に免許を与えるべき事案において、甲に対する拒否処分と乙に対する免許処分とは、「表裏の関係にある」ものであり、甲は、自己に対する拒否処分の取消しを求めうるほか、乙に対する免許処分の取消しをも求めうるが、そのどちらの訴えも、乙に比して甲の申請が優位にあることを理由とするものであるときは、甲と乙との各「申請の優劣に関し再審査を求める点においてその目的を同一にする」から、乙に対する免許処分の取消しを求める場合はもとより、自己に対する拒否処分のみの取消しを求める場合でも、被告による再審査の結果によつては、乙に対する免許を取り消し、甲に対し免許を付与することもあり得、この場合、被告は、拒否処分前の白紙の状態に立ち返り、改めて両者の申請を比較して、はたしていずれを可とすべきか、その優劣についての判定をなすべきである旨判示したものである。本件は、このような複数申請の優劣を判定して、そのいずれかを免許し、他を拒否すべき競願関係にある場合ではないから、訴えの利益に関しても、右判決事案における甲の立場と本件控訴人の立場とは異なるものがあるのであり、同判決を先例とすることはできない。)、控訴人の右取消しの訴えは、不適法として却下を免れない。

三  次いで、控訴人の被控訴人に対する岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことの許可を求める訴えについて考えるに、当裁判所も、控訴人の右訴えは不適法として却下すべきものと判断するものであるが、その理由は、原判決の理由第二項の二の説示と同一であるから、これを引用する。

四  以上の次第であるから、控訴人の本件訴えはいずれも却下すべきものであり、原判決中訴えを却下した部分は相当であつて控訴人の控訴は理由がないのでこれを棄却し、原判決中その余の請求を棄却した部分は失当であるからこれを取り消し、その訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 鐘尾彰文 水野武)

【参考】第一審(大阪地裁 昭和六三年(行ウ)第九号 平成二年四月二六日判決)

主文

一 原告の、被告に対する、大阪府営岸辺住宅に係る簡易ガス事業の許可を求める訴えを却下する。

二 原告のその余の請求を棄却する。

三 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が原告に対し昭和六二年八月二〇日付で大阪府営岸辺住宅についてした簡易ガス事業不許可処分(六二大公第一七七六号)を取り消す。

2 被告は、原告が大阪府営岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことを許可せよ。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

1 本案前

(一) 本件訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

2 本案

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、大阪市東淀川区、並びに大阪府の吹田市、豊中市、箕面市、摂津市、茨木市及び高槻市を事業区域とし、区域内の液化石油ガス(以下「エルピーガス」という。)の販売事業者を組合員資格とする協同組合である。

2 大阪府吹田市岸部北四丁目所在の大阪府営岸辺住宅(以下「岸辺住宅」という。)は、これまでエルピーガス販売業者十数名により、エルピーガスが各戸に供給されていたが、大阪府は、岸辺住宅を建替えることを決定し、右建替えに当たり、同住宅に対するガス体エネルギー供給を簡易ガス事業によるものとして、昭和六二年四月二七日付で、原告に簡易ガス事業によるガス供給を依頼した。

原告は、同年六月一九日、簡易ガス事業の許可を受けるため、被告(当時は大阪通商産業局長)に対し、簡易ガス事業の許可申請(以下「本件申請」という。)をしたが、被告は、本件申請はガス事業法(以下「法」という。)三七条の四第一項三号及び四号に不適合であるとして、同年八月二〇日付六二大公第一七七六号で不許可処分をした(以下「本件不許可処分」という。)。そこで原告は、同年九月八日、通商産業大臣に審査請求をしたが、同大臣は、昭和六三年二月八日右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3 本件不許可処分は、以下述べるとおり、法の解釈、適用を誤つた違法なものである。

(一) 法三七条の四第一項三号について

(1) 簡易ガス事業の開始によつて「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」は存在しない。

「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」とは、一般的には許可の申請に係る簡易ガス事業に係る供給地点のほか、その周辺地域及びその地域へのガスの供給に関連する地域が該当し、その周辺地域及び関連する地域としては、

(イ) 当該簡易ガス事業の開始により、一般ガス事業がその供給地点の周辺地域及び関連する地域に対しガスを供給することとなるときにおける消費者の工事負担金が相当割高となるため、その周辺地域及び関連する地域における一般ガス事業の需要が大幅に減少し、又はなくなることが予想される場合におけるその周辺地域及び関連する地域。

(ロ) 当該簡易ガス事業の開始により、その供給地点を除く残存の需要のみでは一般ガス事業者が導管等に係る投資を行うことが著しく困難となり、またはその投資効率を著しく阻害することとなることが予想される場合におけるその残存の需要の存する地域。

(ハ) 当該簡易ガス事業の開始により、一般ガス事業者の導管敷設工事が、その工事に係る導管がその簡易ガス事業の供給地点を迂回することにより遅延し、又は道路計画等との関連でその工事が中断されることが予想される場合における当該一般ガス事業の導管敷設工事に係る導管によるガスの供給が遅延し、又はできなくなる地域。

をあげることができる。

しかしながら、本件においては、右の(イ)ないし(ハ)に該当するような地域は存しない。すなわち、まず(イ)の要件についてみると、岸辺住宅は、北側は史跡丘陵があつて開発することができないし、西側は池、田が広がる地域であつて、岸部町のなかでも最も奥まつた地域であるから、そこにエルピーガスが供給されることになつたからといつて、周辺地域の一般ガスを供給する際の工事負担金が割高になるわけがない。また、今日では、一般ガスの導管敷設等の工事が消費者の負担で行われることはほとんどないのであるから、それを理由とすることは許されない。次に(ロ)の要件については、岸辺住宅は、岸部町のなかでも最も奥まつた地域であるから、そこに供給できなくなるからといつて、残存需要のみでは一般ガス事業者の投資効率が阻害されるということもありえない。さらに(ハ)の要件についても、岸辺住宅の背後は、これ以上開発できないのであるから、一般ガス事業者の導管が簡易ガス事業の供給地点を迂回するという事情にもない。

したがつて、岸辺住宅の周辺地域及び関連する地域は、本件申請にかかる簡易ガス事業の開始により、一般ガス事業者の「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」には全く該当しない。

(2) 一般ガス事業者の「適切かつ確実なガスの供給計画」は存在しない。

岸辺住宅を含む岸部北三、四、五丁目が一般ガス事業者たる大阪瓦斯株式会社(以下「大阪瓦斯」という。)のガス供給区域となつたのは昭和二九年であるにもかかわらず、同社が岸辺住宅の供給計画を策定したのは昭和六二年春以降であつて、岸辺住宅の建替え問題が出てきてから急遽策定されたものである。このように三十数年も一般ガスを普及してこなかつたというマイナスの実績をもつ大阪瓦斯の供給計画が「適切かつ確実な供給計画」といえるわけがない。しかも右供給計画は、「一一六戸・六二年」となつているが、岸辺住宅の建替えは昭和六三年三月に完成予定であり、また、その戸数は住宅一二四戸と集会所と処理場の合計一二六地点であるから、大阪瓦斯の供給計画は岸辺住宅の建替え計画とも一致しておらず、かかる計画はおよそ「適切」という概念からは程遠い。

また、右当時、岸辺住宅の建設主体たる大阪府は、原告に対して簡易ガス事業によるガス供給を依頼しており、大阪瓦斯に対しては一般ガスの供給依頼をしていなかつたのであるから、このような具体的な発注依頼が全くない供給計画が確実であるはずもない。

したがつて、大阪瓦斯には「適切かつ確実なガスの供給計画」は存しない。

(3) 簡易ガス事業の開始により、「ガスの使用者の一般ガス供給計画の実施によつて受けるべき利益」は阻害されない。

供給計画の実施によつて使用者の受けるべき利益が阻害されるか否かは、まず、供給地点につき、当該簡易ガス事業の開始によるプラス及びマイナス面を、次に、供給地点以外の地域であつて一般ガス事業の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域につき、当該簡易ガス事業の開始によるマイナス面をそれぞれ消費者利益の保護の観点から検討し、最後に、当該地域全体について、以上の検討をもとに当該地域全体における現在及び将来の消費者利益に資することのより大きいガスの供給方式のあり方について、総合的に判断すべきである。

本件についてみると、まず、本件供給地点たる岸辺住宅においては、原告は、大阪瓦斯よりも安い価格でガスを供給することができるうえ、工事負担金はすべて原告が負担するという確約をしているのであるから、簡易ガス事業の開始により消費者はプラスになることはあつてもマイナスになることはない。

次に、本件供給地点以外の地域についても、前述したとおり、消費者が負担する工事負担金が増えるわけでもなければ、一般ガス事業者の本体導管による供給が遅延するおそれもなく、簡易ガス事業が開始されたことによつて消費者利益が阻害されるおそれは全くない。

さらに、本件供給地点である岸辺住宅は大阪府営住宅であるから、消費者利益の第一次判断権は大阪府にあると解すべきであり、大阪府は、とりわけ公共施設におけるエルピーガスの継続使用並びにエルピーガスの発注に際しては地元中小液化石油ガス業者への受注機会の確保について格段の配慮をするとの施策方針を打ち出している。その大阪府が、消費者の利益保護を十分検討したうえ簡易ガス事業を選択し、これによる供給依頼に及んだのであるから、被告もこの判断を尊重すべきである。

(二) 法三七条の四第一項四号について

同号は、「その簡易ガス事業の開始によつてその供給地点についてガス工作物が著しく過剰とならないこと」と定めているが、これに該当するか否かの判断基準としては、

(イ) 一般ガス事業者が既に導管によりガスを供給している供給地点及び一般ガス事業者が消費者の申込みに即応してガスを供給することができるよう既に導管が張り巡らされている地域については、「ガス工作物が著しく過剰」となる。

(ロ) 一般ガス事業者が当該供給計画に基づき現に供給地点を対象とする支管(供給管を分岐することができる導管をいう。)を敷設しつつあり、その工事計画、需要発生の時期等からみて供給地点を対象とする支管が敷設されているということができる場合については、通常「ガス工作物が著しく過剰」となる。

(ハ) 一般ガス事業者が供給地点を対象とする主要な導管を既に敷設しており、供給地点における需要の発生に応じて、すみやかに支管及び供給管を敷設してガスを供給することができる場合については、多くの場合、「ガス工作物が著しく過剰」となる。

と考えるべきである。

ところで、本件の場合、一般ガス事業者の導管敷設の状況をみると、まだ供給計画が策定されただけの段階であり、本件供給地点まで導管は敷設されておらず、ただ、本件供給地点より約一〇〇メートル離れたところまで、吹田市道岸部北二四号線に本管(別紙第一図面<略>記載のアないしエの各点を結ぶ導管。以下「二四号線既設本管」という。)が一本敷設されているに過ぎないから、まず、右(イ)、(ロ)には、当たらない。次に、(ハ)についてみても、二四号線既設本管は下水道工事の際に空管として敷設されたものに過ぎず、このような導管が「当該供給地点を対象とする主要な導管」といえるわけがない。また、本件供給地点に一般ガスを供給するには、右導管を約一〇〇メートルも延長しなければならないのであるから、「需要の発生に応じて、すみやかに」ガスを供給することができる場合にも当たらない。しかも、(ハ)の基準は、「多くの場合」著しく過剰となるとするだけであり、さらに具体的事情が付加されなければ「著しく過剰」とは判断されないのであるが、そのような事情は本件の場合何も存しない。

したがつて、本件供給地点についてガス工作物が著しく過剰となるとは到底いえない。

(三) 法三七条の四第二項について

法は、同項において、同条一項三号及び四号の規定の適用について、地方ガス事業調整協議会の意見をきかなければならない旨定めているが、これは、処分の慎重かつ公平を期し、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保しようとしたものであるから、通商産業局長は、単に調整協議会の意見をきけばよいというものではなく、調整協議会が適切な判断答申をなし得るよう、事案の概要その他会議の開催に必要な事項を記載した文書により通知して調整協議会を招集する(地方ガス事業調整協議会運営要領準則二条、以下、同準則を「準則」という。)ばかりか、会議においても適切な判断資料を提供し、問題点を適切に説明して、法の要求した慎重かつ公正な会議を保証しなければならない。

しかるに、被告は、本件を審議する近畿地方ガス事業調整協議会においては、岸部地域の近くに来ている低圧導管を記載した地図(ただし導管網は記載されていない。)、並びに別紙第二図面記載のA地域及びA、B、C、D地域(以下それぞれ「A地域」及び「ABCD地域」という。)全体についての工事負担金の比較の計算書を配布したのみであり、大阪府の液化石油ガス販売業者の育成についての施策方針の説明もしていないし、「当該事業に利害関係を有するもの」(準則四条)として、原告が参考人として出席し弁明する機会の保証もしていないのであり、このような調整協議会においては法三七条の四第一項三号及び四号の適用についての慎重かつ公正な判断などできるはずがない。

したがつて、本件不許可処分は、調整協議会の審議、答申の過程に重大な法規違反があるから、違法な処分として取り消されるべきである。

4 よつて、原告は、<1>本件不許可処分の取消し及び<2>被告に対し、原告が岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことの許可を各求める。

二 被告の本案前の主張

1 訴えの利益の不存在

本件不許可処分の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法九条で定める法律上の利益を欠くものであり、却下されるべきである。

すなわち、原告の本件申請の前提となつた、岸辺住宅におけるエルピーガス供給についての大阪府の原告に対する供給依頼は既に取り消されているため、現時点では原告の申請は供給の相手方を欠くこととなつている。そして、法は、具体的な供給の相手方を欠く申請について許可をすることを予定しておらず、現時点で本件不許可処分が取り消されたとしても、本申請について被告としては却下せざるを得ない。

さらに、大阪府は、エルピーガス供給依頼を取り消した後、昭和六二年一〇月二九日、一般ガス事業者たる大阪瓦斯にガスの供給申込みをしており、右申込みにより大阪瓦斯は既に岸辺住宅に対するガス供給のための準備を開始しているのであるから(岸辺住宅の建設は現在工事が進められ、平成二年二月ころ完成予定。同住宅に対するガス供給の開始もそのころまでになされることが要請されており、大阪瓦斯の内管工事は既に平成元年九月ころから開始されている。)、現時点においては、大阪瓦斯との契約上の関係からも工期の関係からも、大阪府が大阪瓦斯に対するガス供給の申込みを取り消して、再び原告にエルピーガス供給を依頼することは、社会通念に照らし到底考えられない。

よつて、原告の本件申請は、現時点においては、本件不許可処分の取消しを求める法律上の利益を欠くものといわなければならない(最高裁昭和四四年(行ツ)第一〇号、同四五年一〇月一六日第二小法廷判決・民集二四巻一一号一五一二頁参照。)。

2 義務付け訴訟の不適法性

原告は、請求の趣旨2項において、被告に対し、原告が岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことの許可を求めているが、このような義務付け訴訟は、行政庁の第一次判断権を侵害するから許されないというべきである。義務付け訴訟が例外的に認められるのは、<1>行政庁が当該行政処分をなすべきこと又はなすべからざることについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められ、しかも<2>行政庁による事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であること、あるいは更にこれに加えて、<3>他に適切な救済方法がない、という各要件がみたされる場合に限られるというべきであるが、本件において、右の各要件を欠くことは明らかである。

すなわち法三七条の四で定める簡易ガス事業の許可処分は、地域の開発動向、ガスの需要見通し、一般ガス事業者の供給能力の見通し等を踏まえて、中長期的なエネルギー政策や使用者の利益を検討した上で行われる、極めて政策的、専門的、技術的な内容の判断とならざるを得ないものであり、そこで法が規定しているこの許可基準たる法三七条の四第一項各号の要件も、裁量判断の余地を含む抽象的な内容のものとなつており、覊束裁量ではなく自由裁量と考えられるべき性質のものだからである。

三 本案前の主張に対する原告の反論

1 訴えの利益について

(一) 原告は、昭和六二年九月八日に行政不服である審査請求をなしたが、被告の上級庁たる通商産業大臣は何ら適切かつ迅速な審理をなさないまま、ただひたすら引き延ばしを図り、原告が再三にわたつて早期裁決を要請した結果、ようやく昭和六三年二月八日に裁決がなされたものの、その中には何ら具体的な理由は示されていなかつた。そのため原告は、同月二六日に本訴を提起することを余儀なくされたが、本訴においても、原告の再三にわたる早期審理の要請にもかかわらず、被告が本件不許可処分の具体的な主張立証をなしたのは、ようやく同年九月二〇日付の準備書面においてであり、実に、原告が審査請求をなしてから一年以上たつている。被告のこのような不誠実な応訴態度の結果、審査請求も含めた審理が長引いてきたのであつて、そのことを棚に上げて訴えの利益が欠如したと主張することは信義誠実の原則に反する。これを許すことは、行政庁の違法処分を既成事実のなかで正当化することであつて、法治国家、民主主義の原理を採る日本国憲法に照らし許されない。

(二) 被告が訴えの利益を欠くと主張する根拠は、大阪府の原告に対するガス供給依頼取消通知であるが、これは原告が被告に対してした簡易ガス事業の許可申請について被告が不許可処分を行つたため、大阪府としても本件不許可処分が適法であるとの前提に立ち、やむをえずエルピーガス供給を断念したことによるものであるから、本件不許可処分が取り消されれば、大阪府のガス供給依頼取消通知も根拠を失うこととなる。さらに、大阪府の大阪瓦斯に対するガス供給依頼も、本件不許可処分を前提とするものであるから、本件不許可処分が取り消されれば、その根拠を失うことは当然である。したがつて、大阪府の原告に対するガス供給依頼取消し及び大阪瓦斯に対するガス供給依頼を理由として訴えの利益を欠くものであるとすることは、本末転倒であるから許されない。

2 義務付け訴訟について

法規に基づき、裁判所によつて具体的法規範が決定されれば、それは私人、行政庁を問わず全てに適用されるべきであり、行政庁のみが具体的法規範の適用、義務付けを免れる論理は、日本国憲法の何処を探しても出てこない。しかも、本件においては、既に行政庁の第一次判断権は本件不許可処分という形で行使されており、それが法三七条の四第一項三号、四号の解釈適用を誤つた違法があるとするのであれば、本件許可申請を許可することは被告の第一次判断権を侵すことにならない。

被告は、簡易ガス事業許可処分の性質について法三七条の四第一項各号の要件は抽象的な内容となつているから、覊束裁量ではなく自由裁量と考えるべき性質のものであると主張するが、自由裁量が認められる抽象的要件とは、例えば「公益上の必要がある場合」とか、「許可を認めるのが相当な場合」等と規定されている場合を言うのであるところ、法は右のような抽象的な許可基準ではなく、わざわざ具体的な許可基準として三七条の四を設けているのである。これは、行政庁の許可行為については、個人の自由及び権利の尊重を確保する見地から大幅な自由裁量は認めず、厳密な許可基準を定め、行政庁の自由裁量の余地をできるだけ排除し、法の民主化を図るべきであるという憲法の思想の下に許可基準の明確化が図られたためであるが、被告の立論はこのような立法経緯を全く無視するものである。

本件不許可処分については、法三七条の四第一項三号、四号の基準に適合しているかどうかのみが厳密に判断されれば足りるのであつて、それ以上に法の要求していない「地域の開発動向、ガスの需要見通し、一般ガス事業者の供給能力の見通し等を踏まえて、中長期的なエネルギー政策」など被告主張の考慮要素を検討する必要はないし、ましてや被告の裁量判断を尊重する必要もない。

四 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は知らない。

2 請求原因2のうち、岸辺住宅が、これまでエルピーガス販売業者十数名により、エルピーガスが各戸に供給されていたことは知らないが、その余の事実は認める。

3 請求原因3について

(一) 同(一)(1)のうち、事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域についての判断基準が、原告主張のような判断基準であること、及び岸辺住宅の北側には史跡丘陵があり、西側には池、田があることは認めるが、その余の主張は争う。

(二) 同(一)(2)のうち、大阪瓦斯の昭和六二年度供給計画には、岸辺住宅が原告主張の供給地区としてあげられていること、一方、岸辺住宅の建替え完成予定の時期、戸数が原告主張のとおりであつたこと、及び大阪府が原告に対して簡易ガス事業によるガス供給を依頼しており、大阪瓦斯に対しては一般ガスの供給依頼をしていなかつたことは認め、大阪瓦斯が岸辺住宅の供給計画を策定した時期とその経緯については知らない。岸辺住宅を含む岸部北三、四、五丁目がガス供給区域となつたのは、昭和二九年であることは否認する。その余の主張は争う。

(三) 同(一)(3)のうち、供給計画の実施によつて受けるべき利益が阻害されるか否かの判断基準が、原告主張のような判断基準であること、本件供給地点たる岸辺住宅においては、一般ガスと簡易ガスとで、料金、工期等の点からは一応有意の差はないと考えられること、岸辺住宅が大阪府営住宅であること、及び大阪府が公共施設におけるエルピーガスの継続使用並びにエルピーガスの発注に際しては地元中小液化石油ガス業者への受注機会の確保について格段の配慮をするとの施策方針を打ち出していることは認め、その余の主張は争う。

(四) 同(二)のうち、ガス工作物が著しく過剰となるか否かの判断基準が、原告主張のような判断基準であること、及び本件供給地点には導管は敷設されておらず、二四号線既設本管が、本件供給地点より約七〇メートル離れたところまで敷設されていることは認め、二四号線既設本管が、下水道工事の際に空管として敷設されたものであることは知らない。その余の主張は争う。

(五) 同(三)のうち、法三七条の四第二項が、一項三号及び四号の規定の適用について、地方ガス事業調整協議会の意見を聞かなければならない旨規定していること、及び右規定の趣旨が原告主張のようなものであることはそれぞれ認め、被告か、近畿地方ガス事業調整協議会において、岸部地域の近くに来ている低圧導管のはいつた地図、並びにA地域及びABCD地域全体についての工事負担金の比較の計算書を配布したこと、その際大阪府の液化石油ガス販売業者の育成についての施策方針の説明はしていないこと、及び準則四条に規定する「当該事案に利害関係を有するもの」として原告に参考人としての出席、意見を述べることを求めてはいないことを除くその余の主張は争う。

五 被告の主張

1 法三七条の四第一項三号について

(一) 「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」の存在

(1) 本件においては、本件供給地点から約七〇メートルの地点に一般ガス事業者たる大阪瓦斯の二四号線既設本管の末端が敷設されており、本件供給地点及び周辺地域のガス需要に対しては大阪瓦斯による供給が即応できるものであるから、本件供給地点に簡易ガス事業が開始されれば、残存需要のみでは二四号線既設本管の投資効率が著しく阻害されることとなる。

また、本件申請が許可され本件供給地点にエルピーガスが供給される場合と、本件申請が許可されず本件供給地点に一般ガスが供給される場合のそれぞれの場合について、本件供給地点の周辺地域であるABCD地域において一般ガスの供給を受ける場合の工事負担金の額を試算すると、本件申請が許可されなかつた場合には工事負担金は一戸当たり五万五六〇三円になるのに対し、本件申請が許可された場合の工事負担金は一戸当たり一七万一三七〇円となる。したがつて、本件簡易ガス事業が開始されれば、ABCD地域において、一般ガスの供給を受ける場合の消費者の工事負担金が相当割高となる。

その結果、事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域は、本件供給地点及びABCD地域であるということができる。

(2) 右のABCD地域の設定の仕方については、周辺地域の消費者が一般ガスの供給を希望する場合には、その工事負担金をできるだけ少なくするため、ある程度まとまつた数で同時に供給を希望するのが一般的と考えられることから、周辺地域の地理的状況を検討し、道路等によつて合理的に区切ることが可能なこの四地域を設定したものである。

(3) また、工事負担金の試算については、まず導管の敷設ルートについては、ガスを供給する戸数、住宅の所在などの地理的状況から、導管延長をできるだけ短くし、工事費用が安くなるよう設定している。次に管径の設定については、大阪瓦斯の供給規程に規定されている工事負担金が、使用者の予定使用量に必要な大きさの本支管及び整圧器の設置の工事に要する費用をもつて算出されることになつているため、現実に敷設される導管の管径ではなく、使用者の予定使用量に必要な大きさの管径をもつて試算している。そして、これら工事負担金の試算における具体的な負担金の計算は、認可されている大阪ガスの供給規程に基づいてなされている。

(4) 原告は、岸辺住宅は、その背後は史跡丘陵があつて開発することはできないばかりか、その西方は池、田が広がる地域であつて、岸部地区の中でも最も奥まつた地域であると主張する。しかしながら、岸辺住宅の北、東、南の各方面には、隣接し連なるようにして既築の一戸建、アパート等の住宅があり、岸辺住宅は、これらの住宅と不可分な集落を形成している。これらの集落は、北部を通つている大阪府道豊中摂津線と、東部から南部にかけて通つている大阪府道大阪高槻京都線の道路沿いにある集落に連なつており、その中間に一部農地、空き地があるが、全体として市街化された地域といえる。また、岸辺住宅の所在する地域は、都市計画法に基づく市街化区域で、第二種住居専用区域及び第二種高度地区に指定されており、最近では高層マンシヨンも建設されている。したがつて、岸辺住宅及びその周辺地域は、既に市街地を形成しており、また今後もさらに都市整備が予測される地域であるといえ、原告の主張は、明らかに誤つている。

(二) 一般ガス事業者の「適切かつ確実な供給計画」の存在

(1) 一般ガス事業者たる大阪瓦斯は通商産業大臣に提出した昭和六二年度供給計画(以下「昭和六二年度供給計画」という。)において、岸辺住宅を開発地区として記載している。ところで、一般ガス事業者が導管を敷設する場合に、その導管の管径をどの程度の規模にするかについては、その地域の将来のガスの需要動向を判断し定められるものであるが、開発地区に対して導管を敷設する場合には、周辺住民がその導管からのガスの供給を期待することが当然に予想され、一般ガス事業者はこの供給申込みに対しても供給義務を負つているのであるから、開発地区の需要だけでなく、その周辺地域の需要にも応ずることが可能な管径にするものであり、本件においても、大阪瓦斯は、二四号線既設本管からの本件供給地点への延長導管として現に一五〇ミリメートルの管径をもつ導管を予定し、本件周辺地域の需要にも応ずることができるようにしているのである。したがつて、本件供給地点たる岸辺住宅に関する供給計画は、当然に本件供給地点周辺の地域への供給を想定しているものであり、本件供給地点周辺のABCD地域には供給計画があるといえる。

なお、供給計画における大阪府吹田市のガス普及計画にも、当然に本件供給地点及び本件供給地点たる開発地区周辺の需要に対する普及を前提にした数字が記載されている。

(2) ところで、供給計画が適切であるか否かは、この供給計画によつて供給する条件が他の一般ガス事業者の供給条件と比較して適切であるか、その供給開始時期が都市化の進展等の状況からして時期的に適切であるか、供給する場合の工事負担金が通常の工事負担金程度であるか、その供給するための設備計画が需要等に照らして適切であるか等の観点から判断すべきである。本件についてみると、本件供給地点及びその周辺地域は、既に市街化しており、これらの地域に一般ガスを供給する計画は時宜にかなうものであること、本件供給地点から約七〇メートル離れた地点に二四号線既設本管の末端が来ていることから、本件供給地点及びその周辺地域であるABCD地域への一五〇ミリメートルの管径をもつ導管の敷設計画は相応の設備計画であること、本件供給地点への供給のための工事負担金で零であり、またABCD地域への供給のための工事負担金は前記のとおり五万五六〇三円であつて、大阪瓦斯の供給区域内の他の通常の消費者が負担した工事負担金の範囲内であること、本件供給地点及びABCD地域へ供給する場合のガス料金は大阪瓦斯の供給規程で定める通常のガス料金であること等の事情があり、これによると、本件供給地点及びその周辺地域に対する大阪瓦斯の供給計画は適切であるというべきである。

(3) 供給計画が確実であるか否かは、ガスの需要の発生に速やかに応じられるかということから判断すべきである。本件についてみると、本件供給地点及び周辺地点に対しては二四号線既設本管よりガスを供給することになるが、二四号線既設本管は本件供給地点及び周辺地域に対して十分な供給能力を持つていること、及び本件供給地点は二四号線既設本管から約七〇メートルの位置にあり、大阪瓦斯の工事能力から判断すると、これを延長することは容易であることから考えて、需要の発生に速やかに応じることができるものといえるから、本件供給地点及びその周辺地域に対する供給計画は確実である。

なお、供給計画の確実性の審査は、当該地域の需要の発生に対して一般ガス事業者が確実に供給できるかどうかを判断するものであつて、供給区域内におけるガス供給義務を負う一般ガス事業者に対し具体的に発注依頼があるかどうかは、この判断とは無関係である。

(三) 「ガス使用者の一般ガス供給計画の実施によつて受けるべき利益」が阻害されること

(1) 法三七条の四第一項三号にいう「当該地域」とは、同号の「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」をいうのであり、本件では、本件供給地点たる岸辺住宅のみならず、その周辺地域たるABCD地域の消費者の利益が考慮されなければならない。

周辺地域について、簡易ガス事業の開始により消費者の利益が阻害されるか否かは、簡易ガス事業が開始された場合とそうでない場合との比較において、この地域における一般ガスの供給を受ける場合の工事負担金の額が割高となるか否かをまず検討すべきであるが、この点については(一)(1)で述べたとおり、ABCD地域において一般ガスの供給を受ける場合の工事負担金の額は、本件申請が許可されなかつた場合には一戸当たり五万五六〇三円になるのに対し、本件申請が許可された場合には一戸当たり一七万一三七〇円となり、本件簡易ガス事業が開始されれば、ABCD地域において、一般ガスの供給を受ける場合の消費者の工事負担金は相当割高となる。また、二四号線既設本管以外の導管経路により供給されるものとして試算しても、本件簡易ガス事業が許可された場合に、ABCD地域において一般ガスを利用する際、消費者が負担すべき工事負担金の額は相当割高になる。

(2) 以上の工事負担金の試算の結果、本件供給地点に大阪瓦斯による一般ガスの供給が開始された場合には、ABCD地域の住民は、一般ガスの供給を希望する場合には容易に一般ガスを選択することができるのに対し、反対に、本件供給地点に簡易ガス事業が開始されると、ABCD地域の住民は、一般ガスの供給を希望する場合であつても、このための工事負担金は相当高額となり、事実上一般ガスの供給を受けることを断念せざるを得なくなることが予想される。そこで、本件供給地点へ供給するガス体エネルギーの選択として、簡易ガス事業の開始を許可することは、本件供給地点の周辺地域であるABCD地域における一般ガスの普及を相当期間遅らせることになり、すでに大阪瓦斯の供給計画の対象となつているABCD地域の消費者がこの計画の実施によつて受けるべき利益を阻害するというべきである。

2 法三七条の四第一項四号について

本件においては、本件供給地点から最も近い大阪瓦斯の導管として、約七〇メートル離れたところに大阪瓦斯の二四号線既設本管の末端が存在し、この末端からは、大阪瓦斯の供給規程による最低圧力である一〇〇水柱ミリメートルを前提として計算した場合、現供給戸数のほか、さらに約四三〇戸にガスを供給する能力があるところ、二四号線既設本管の末端から、本件供給地点への延長工事を行うに当たつて物理的障害等もなく、過去の大阪瓦斯の工事能力、工事実績からみると、本件供給地点及びその周辺地域においてガス需要が発生すると、大阪瓦斯は速やかに延長工事を行つてガスの供給を行うことができる。したがつて、二四号線既設本管は、本件供給地点及びこれに近接する周辺地域を対象とした導管であると判断されるから、本件申請を許可すると、本件供給地点においてガス工作物が著しく過剰な状態になる。

3 以上のとおり、被告は本件処分に当たつて、法三七条の四第一項三号及び四号の許可基準に基づき厳正に審査を行い、その結果不許可処分をしたものであり、その判断過程には、何ら法の解釈、適用を誤つた違法はない。

六 原告の反論

1 法三七条の四第一項三号について

(一) 「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」の不存在

(1) 被告は、二四号線既設本管の投資効率を問題とする。

しかしながら、二四号線既設本管のうち別紙第一図面記載のイ及びウの各点を結ぶ部分は、吹田市道岸部北二四号線の下水道工事を行うついでに空管として敷設されたものであること、敷設された時期も昭和五六年から昭和六〇年にかけてであつて、その当時は岸辺住宅の建替えの予定が未だ立つていなかつたこと、及び二四号線既設本管は、岸辺住宅の七〇メートルないし一〇〇メートル手前までしか敷設されなかつたことを考え合わせると、二四号線既設本管が岸辺住宅を対象としたものではないことは明らかである。

また、二四号線既設本管の周囲には、田畑が多数残つているが、岸部北地域は市街化地域であるから、農地転用や開発行為の許可は容易になされ、将来開発需要が多数見込まれるので、その開発需要を考えると、岸辺住宅にガス供給できなければ二四号線既設本管の投資効率が全く無駄になるというものでもない。

さらに、二四号線既設本管のうち別紙第一図面記載のア及びイの各点を結ぶ部分は、その先端の一世帯の消費者にガスを供給するために敷設されたものであるから、本来五〇ミリメートルの管径をもつ導管の敷設で足りたものであり、それを一五〇ミリメートルの管径をもつ導管にしたのは、大阪瓦斯の勝手な判断であるから、このような導管の投資効率を保護する必要は全くない。

以上のことからすれば、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始されることによつて、二四号線既設本管の投資効率が阻害されることはおよそあり得ない。

(2) 被告の採用した工事負担金の比較方法は、当該供給地点にエルピーガスが供給される場合に、その周辺地域に一般ガス事業者たる大阪瓦斯のガスを供給しようとするときの工事負担金の額と、当該供給地点が大阪瓦斯に転換された場合のそれとを比較しようとするものである。しかしながら、当該供給地点のすべてが大阪瓦斯に転換された場合を想定すれば、当該供給地点にエルピーガスが供給された場合と比較して、工事負担金の額が安くなるのは当然のことであり、法がそのような方法を予定したとはおよそ考えられない。この点、法は、「その簡易ガス事業の開始によつてその一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある」といつているのであり、条文を文字どおり読めば、「簡易ガス事業の開始」に因果関係を有する影響を問題にしていることは明らかであるから、簡易ガス事業の開始によつて、それが開始されなかつたときと比べて、一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがあるのかどうかを検討すれば足りるし、同号の許可基準が設けられた趣旨は、一般ガス事業と簡易ガス事業の公正かつ合理的な調整を図るためであることからすると、右にいう「一般ガス事業者の事業の遂行」に伴う利益も仮定的な利益ではなく、簡易ガス事業が開始される直前の現実的な利益というべきである。

また、被告は、本件供給地点が全部一斉に大阪瓦斯に転換された場合を前提として工事負担金の額を計算しているが、本件供給地点を含む岸部北地域一体は、昭和二〇年に大阪瓦斯の供給区域に入りながら、その後今日に至るまで一般ガスが供給されてこなかつた地域であるから、被告のこの前提も何ら合理的根拠を有しない。

(3) 被告は、「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」として、ABCD地域が当たるとしているが、「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」とは、一般的には、許可の申請に係る簡易ガス事業に係る供給地点のほか、その周辺地域及びその地域へのガスの供給に関連する地域が該当するのであり、供給地点に近接する周辺地域に限定すべきではない。検討する地域を狭く限定したのでは、消費者の負担すべき工事負担金が不当に高くなつて非実際的になり、一般ガス事業者と簡易ガス事業者との公平かつ合理的な調整を図るという同号の趣旨ないし法の目的に合致しない。

したがつて、本件においても、本件供給地点に近接する周辺地域のみならず、関連する地域まで広げて検討した上で、なお消費者の工事負担金が相当割高になる場合にのみ、「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」に該当すると判断すべきである。すなわち、周辺地域をABCD地域に限定し、ガス供給導管を二四号線既設本管と限定するようなことをせず、岸部北三、四、五丁目全体に対する理想的なガス供給のあり方を考え、そのなかで本件供給地点に対する簡易ガス事業が開始された場合と、開始されなかつた場合との工事負担金を比較することが要求されているというべきであり、そのようにして計算しても、なお工事負担金が相当割高になつた場合にはじめて、その地域を「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」と判定すべきである。

(4) 被告の工事負担金の計算内容はきわめて恣意的なものであり、およそ採用するに値しないものである。

まず、管径設定についてであるが、消費者の負担すべき工事負担金の算定に当たつては、その消費者の需要に見合う大きさの管径の導管を基礎にして行うべきところ、A地域の想定需要量に対する導管は五〇ミリメートルの管径をもつ導管ですむとされるのであるから、ABCD地域を対象とする工事負担金の計算に当たつても、二四号線既設本管から岸辺住宅の西南端までの延長部分の導管は、一五〇ミリメートルの管径をもつ導管ではなくて、五〇ミリメートルの管径をもつ導管を敷設するものとして考えるべきである。

次に、二四号線既設本管から導管を延長してABCD地域にガスを供給するという導管敷設ルートであるが、このガス供給の方法では、岸辺住宅がエルピーガス供給の場合のABCD地域二二三戸へガスを供給するに当たり、導管を一二九三メートル延長することになり、一戸当たりの導管延長距離は五・八メートルになる。これに対し、大阪府吹田市における供給実績は、昭和五八年度が一戸当たり五・六五メートル、昭和五九年度が同〇・九五メートル、昭和六〇年度が同〇・六三メートルとなつており、右の一戸当たり五・八メートルという数字は、昭和五八年度以外の平均的年度における同一メートル未満と比較していかにも非現実的である。なお、昭和五八年の数字が大きくなつているのは、幹線導管の敷設が積極的になされた例外的な年度であるからであり、この年度と比較するのは妥当ではない。

また、二四号線既設本管以外の低圧導管や中圧導管からのルートの計算も恣意的なものといわざるを得ず、岸部北三、四、五丁目の広大な一般ガス未普及区域にガスを普及することを考えれば、二四号線既設本管のみにこだわらず、大阪府道豊中摂津線に敷設されている低圧導管の、別紙第一図面オ記載の地点における取り出し口(以下「七尾橋取り出し口」という。)を起点にして導管を敷設するルート、吹田市道岸部北原町線に敷設されている中圧導管の、同図面カ記載の地点における取り出し口(以下「市道中圧導管取り出し口」という。)を起点にして導管を敷設するルートを適切に組み合わせることにより、岸辺住宅にエルピーガスが供給されることになつた場合でも、一般ガスが供給されることになつた場合と比較して、必ずしも割高にならないで供給することが出来るようになると考えられる。

さらに、被告は、整圧器設置に要する費用につき、消費者の負担と主張するが、整圧器は、導管のように専ら使用の申込みをした消費者の用にしか供されないガス工作物とは異なり、広くその地域一体の消費者の利益に供される性質のものであるから、右費用を消費者に負担させることの根拠は何ら存せず、大阪瓦斯の負担とされるべきものである。

そのうえ、岸部北三、四、五丁目はまだ宅地化されていない田畑が多数残つているのであるから、その開発需要をも考えれば、岸辺住宅にエルピーガスが供給されることになつた場合の工事負担金は被告の試算以上に安くなることは明らかである。また、岸部北三、四、五丁目は、前述したとおり将来的に開発されることが予想されるのであるから、将来における「一般ガス事業者の事業の遂行」を考えれば、本件不許可処分時において「遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは考えられない。

このように、被告の計算は、あらゆる点において誤つているといわなければならない。

(二) 一般ガス事業者の「適切かつ確実な供給計画」の不存在

被告は、本件供給地点たる岸辺住宅に関する供給計画は、当然に本件供給地点周辺への供給を想定しているのであり、ABCD地域には供給計画があるといえると主張する。しかしながら、本件供給地点を対象とする供給計画が提出されているのみで、周辺地域への供給も確実になるというのは、大阪瓦斯が本件供給地点に対する供給計画を実施するに当たつて、周辺地域に対する供給をも可能にするような導管を敷設するであろうという楽観的推測に依拠するものに過ぎない。本件供給地点に対する供給計画はあくまで本件供給地点に対するものに過ぎず、そこには一一六戸に対する供給計画しか明示されていないのであり、大阪瓦斯がその供給計画を実施するに当たつて、周辺地域の需要にも応じられる導管を敷設するかどうかは全く分からないのであり、しかもその楽観的推測どおりに大阪瓦斯が実施することは法的に何ら義務付けられていないのであるから、そのような供給計画に明示されていない楽観的観測に基づいて周辺地域に対する「確実な」供給計画が明らかにされているなどとはおよそ言えない。

また、被告は、供給計画における大阪府吹田市のガス普及計画には、当然に本件供給地点及びその周辺の需要に対する普及を前提にした数字が記載されていると主張するが、同号にいう「供給計画」は、簡易ガス事業と一般ガス事業との公正かつ合理的な調整を図る基準たるにふさわしいものでなければならないのであるから、それは何よりも明確なものでなければならない。ところが、被告の主張する「都市ガス普及計画」とは、大阪府吹田市という行政区域の中で普通世帯数と普及率との関連から示された概括的な数字に過ぎず、ガスメーターの取付数がABCD地域を含むものであるかどうかすら明らかではないのであるから、このようなものが一般ガス事業と簡易ガス事業との調整基準としての明確な供給計画であるということはできない。

(三) 「ガス使用者の一般ガス供給計画の実施によつて受けるべき利益」が阻害されないこと

(1) 本件供給地点の周辺地域のガス使用者の受けるべき利益が阻害されるか否かの判断基準につき、被告は、岸辺住宅が簡易ガス事業と一般ガス事業のいずれかのガス供給方式を選択した場合における周辺地域のガス使用者が一般ガスの供給を受けるときの工事負担金の比較によつて検討している。しかしながら、消費者利益の阻害の有無は、法三七条の四第一項四号の許可基準の独立の要件である以上、「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある」かどうかの判断基準とは別個の判断基準でなければならないというべきであるのに、被告は同じ工事負担金の比較の方法を用いている。これでは「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある」と判断された場合には当然「ガスの使用者の当該供給計画の実施によつて受けるべき利益が阻害」されることになつてしまい、この要件を独立の判断基準にする必要は全くないことになつてしまうから、被告の判断方法は誤つている。

そもそも、ABCD地域の消費者が供給計画の実施によつて受ける利益は、「都市ガス普及計画」という概括的な供給計画によるものであり、仮にこの計画に明確性があるとしても、岸辺住宅に対する供給計画の実施の結果として、周辺地域に対するガスの供給も可能になるという程度のものにすぎないのであるから、周辺地域の消費者の利益は岸辺住宅に対する供給計画の実施の反射的利益に過ぎない。そのうえ、岸辺住宅に対する一般ガスの供給計画は大阪府の供給依頼を受けたものではないし、岸部北地域に対する過去四〇年間の大阪瓦斯のマイナスの普及の実績に照らすと、周辺地域の「ガスの使用者の当該供給計画の実施によつて受けるべき利益」は何ら明確で確実な利益ともいえない。このような極めて漠然として反射的、不確実なものに過ぎない周辺地域の消費者の利益が阻害されるかどうかなど検討のしようがないし、またその必要もない。

(2) 供給計画の実施によつて受けるべき利益が阻害されるか否かについては、当該地域全体における現在及び将来の消費者利益に資することのより大きいガスの供給方式のあり方について、総合的に判断することが必要であるが、本件供給地点たる岸辺住宅については簡易ガス事業による供給になつても消費者利益は阻害されるという根拠はないこと、周辺地域の消費者の利益は漠然として反射的、不確実なものに過ぎないこと、過去四〇年間にわたつて岸部北三、四、五丁目地域には大阪瓦斯は普及されてこず、原告の構成員であるエルピーガス販売業者がこの地域に不可欠なガスを供給してきたこと、本件簡易ガス事業は従来エルピーガス事業者が個別的にボンベ売りをしていたのを大阪府からの意向を受けて近代的に導管を通じてエルピーガスを供給しようとしているものに過ぎないこと、岸辺住宅の北西の紫金山公園は史跡丘陵地帯になつており開発できず、かつ、岸辺住宅の南東には吹田市道岸部北原町線の中庄、低圧導管が敷設され、また、岸辺住宅の北には七尾橋取り出し口があるのであるから、岸辺住宅に大阪瓦斯による供給がされないと岸部北三、四、五丁目への一般ガスの供給が不可能ないし著しく困難になるとはいえないこと、二四号線既設本管からの大阪瓦斯の供給能力は岸部北三、四、五丁目全体へのガス供給を可能ならしめるものではなく、いずれ市道中圧導管取り出し口や七尾橋取り出し口を起点にして導管を敷設する必要が生じ、その時に岸辺住宅及びABCD地域を除いた地域のみで工事負担金を負担すると割高になると予想されること等を総合的に考え合わせれば、岸部北三、四、五丁目全体の消費者にとつて、岸辺住宅にエルピーガスを供給することがマイナスになるとはおよそ考えられない。

2 法三七条の四第一項四号について

被告は、二四号線既設本管は岸辺住宅の需要に十分応えられる能力を有しており、また大阪瓦斯の工事能力からして需要の発生に速やかに応じられるものであるから、本件申請を許可すると、本件供給地点においてガス工作物が著しく過剰な状態になると判断したとするが、被告のこの判断の仕方は、岸辺住宅に対する供給計画の確実性の判断の仕方と全く同一であり、これでは本号の許可基準を独立の要件とした意味が全くない。

第三証拠 <略>

理由

第一本件申請と本件不許可処分の経緯等

<証拠略>によれば、原告がその主張のとおりの協同組合であること、及び岸辺住宅は、これまでエルピーガス販売業者十数名により、エルピーガスが各戸に供給されていたことがそれぞれ認められる。

また、大阪府が、岸辺住宅を建替えることを決定し、右建替えに当たり、岸辺住宅に対するガス体エネルギー供給を簡易ガス事業によるものとして、昭和六二年四月二七日付で、原告に簡易ガス事業によるガス供給を依頼したこと、並びに本件申請とこれに対する本件不許可処分及び審査請求とこれに対する通商産業大臣の裁決の経緯が原告主張のとおりであること、以上の各事実は、当事者間に争いがない。

第二本案前の主張に対する判断

一 被告は、原告の本件不許可処分の取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法九条で定める法律上の利益を欠くに至つたものであり、却下されるべきであると主張する。

しかしながら、岸辺住宅におけるエルピーガス供給についての大阪府の原告に対する供給依頼が既に取り消され、大阪府が大阪瓦斯に対し岸辺住宅につきガスの供給申込みをしているとしても、本件口頭弁論終結時において岸辺住宅がいまだ建設途中であることは被告の自陳するところであり、加えて大阪府の原告に対する供給依頼が取り消された理由が原告主張のとおりであることは弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、大阪府が大阪瓦斯に対する供給依頼を取り消して、改めて原告に対し供給依頼をなす可能性も全くないとまでいうことはできない。

また、原告の申請に対し、供給の相手方を欠くとの理由で却下するか否かは、本件不許可処分が取り消された場合に、改めて被告が決する際に検討すべき事柄であり、前記のとおり、再度原告に対して大阪府が供給依頼をする可能性も全くないとまでいうことはできない本件にあつては、現段階で供給依頼がないことをもつて訴えの利益なしとすることはできない。

なお、被告の引用する判例は、右のような可能性が絶無であることを前提とした判断であり本件とは事案を異にし、適切でない。

よつて、被告の右主張は失当である。

二 原告は、請求の趣旨2項において、被告に対し、原告が岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことの許可を求めている。

しかしながら、本件のような義務付け訴訟は、裁判所が、行政庁に代わつて自ら行政処分をすることとなるから、三権分立の制度上原則として許されないというべきであり、ただ行政庁が特定の行政処分をなすべきこと、又はなすべからざることが法律上覊束されていて裁量の余地がなく、しかも、第一次判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でなく、さらに行政庁の行政処分を待つていたのでは多大の損害を被るおそれがあり、事前の救済の必要があるが、他に適当な救済方法がない場合に限つて、極めて例外的に許されるものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、法三七条の四第一項各号に該当するか否かの判断に当たつては、法文の文言からしても、被告にある程度の裁量権が与えられていると考えられること、また、本件申請を許可するには、法三七条の四第一項各号の全ての要件を満たしている必要があることから、本件は義務付け訴訟が例外的に許容される場合に当たるとはいえず、原告の右訴えは、不適法として却下すべきである。

第三本案についての判断

一 被告の判断の適否を考えるに当たつては、法三七条の四第一項各号の規定の仕方が、各要件につき被告の裁量を全く排除するほどに明確かつ一義的に規定されているとはいえず、各要件の適合性の有無についての解釈に際して、被告の裁量の余地を認めているものと解されることから、要件の存否の認定に明白かつ顕著な誤認があり、あるいは要件認定の際に考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮しているとか、その認定が合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なものである場合には、裁量権の行使は違法となるものと解すべきである。かかる観点から、以下順次検討する。

二 法三七条の四第一項三号について

1 事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域

(一) 「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」とは、一般的には許可の申請に係る簡易ガス事業に係る供給地点のほか、その周辺地域及びその地域へのガスの供給に関連する地域が該当し、その周辺地域及び関連する地域としては請求原因3(一)(1)記載の(イ)(ロ)(ハ)の各地域をいうものと考えられる。

ところで、被告は、ABCD地域が「事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域」に当たると主張するので、以下この点について検討する。

(二) <証拠略>によれば、以下の各事実が認められる。

(1) 岸辺住宅の西側は、北から南へかけて釈迦ヶ池、紫金山運動公園、紫金山公園、吉志部神社、須徳器窯跡、吉志部瓦窯跡、小路新池と連なり、その間には田畑が広がつている地域であり、他方、岸辺住宅の北側、東側、及び南側の各地域は、一部田畑が見受けられるほかは、住宅が連なり、集落を形成している地域である。そして、岸辺住宅は、この集落の西端に位置している。

(2) 岸辺住宅には、一般ガス事業者たる大阪瓦斯の導管は敷設されていないが、岸辺住宅から約七〇メートル離れたところまで、大阪瓦斯の導管である二四号線既設本管が敷設されている。二四号線既設本管のうち、別紙<略>第一図面記載のイとウを結ぶ部分は、昭和五六年から昭和五八年にかけて敷設されたものであり、当初は、空管であつた。また、同図面記載のアとイを結ぶ部分は、その周辺の住民からの要請に基づき、昭和五九年から昭和六〇年にかけて敷設されたものである。大阪瓦斯は、新たに導管を敷設する場合、特定の需要のみに応ずることのできる管径を有する導管を敷設するのではなく、その周辺地域の新たな需要にも応ずることができるような大きさの管径を有する導管を敷設するという方法を採つており、二四号線既設本管の敷設に当たつても、周辺地域の将来の需要に応ずることができるよう、一五〇ミリメートルの管径を有する導管を敷設している。そして、二四号線既設本管は、大阪瓦斯の一般ガス供給規程による最低圧力である一〇〇水柱ミリメートルを前提として計算した場合、現供給戸数のほかに、さらに約四三〇戸に対して供給することができる能力を有している。

(3) 別紙<略>第二図面記載のD地域(以下「D地域」という。)とその北側の地域との間には、二階建くらいの高さの段差があり、また、同図面記載のC地域(以下「C地域」という。)とその北西の地域との間を走つている道路は、日本道路運送の社有地である。

(4) 工事負担金の額は、岸辺住宅が一般ガスの供給になつた場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、五万五六〇三円となり、岸辺住宅がエルピーガスの供給になつた場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、二四号線既設本管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、一七万一三七〇円となり、岸辺住宅の周辺に敷設されている他の導管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、それ以上の額になる。

以上の各事実が認められる。

(三) そこで、被告の判断について検討する。

(1) まず、ABCD地域の設定については、<証拠略>によれば、被告としては、ABCD地域が道路の状況及び住宅の集合状況によりその周辺地域と区切ることができるとの理由で、ABCD地域を設定したことが認められるところ、D地域とその北側の地域との間には二階建くらいの高さの段差があること、及びC地域とその北西の地域との間を走つている道路は、日本道路運送の社有地であること、前記認定のとおりであるから、被告のABCD地域の設定は、合理的な裁量の範囲を逸脱しているとは認められない。

(2) 次に、岸辺住宅にエルピーガスが供給される場合と、一般ガスが供給される場合のそれぞれの場合について、ABCD地域における一般ガス供給の際の工事負担金額をみると、<証拠略>によれば、導管の敷設ルートを道路に沿つて敷設しつつ最短の距離になるように設定したうえ、管径を大阪瓦斯の一般ガス供給規程の定めるところに従い試算した(<証拠略>)と認めることができるところ、右試算内容を精査しても、明らかに不合理な導管敷設ルートや管径を想定していると窺わせる点はなく、工事負担金の計算も、被告の合理的な裁量の範囲内で行われたものと認められる。

(3) 工事負担金の計算の結果、岸辺住宅が一般ガスの供給になつた場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、五万五六〇三円となること、及び岸辺住宅がエルピーガスの供給になつた場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、二四号線既設本管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、一七万一三七〇円となり、岸辺住宅の周辺に敷設されている他の導管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、それ以上の額になることは、前記認定のとおりであるから、岸辺住宅に本件簡易ガス事業が開始された場合には、ABCD地域において、一般ガスの供給を受ける場合の消費者の工事負担金が相当割高となるとの被告の判断は相当である。

(4) 二四号線既設本管が、岸辺住宅から約七〇メートル離れたところまで来ていること、及び二四号線既設本管は、岸辺住宅及びその周辺地域へ一般ガスを供給することができる能力を有する導管であることは、前記認定のとおりであるから、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始された場合には、二四号線既設本管の投資効率は著しく低下するとの被告の判断は相当である。

以上のほか被告の前記判断の過程に特段の恣意を窺うことのできない本件においては、岸辺住宅及びABCD地域が、簡易ガス事業の開始によつて一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域に当たるとした被告の判断は、相当と認められる。

(四)(1) ところで、これに対し、原告は、まず、岸辺住宅は、岸部町のなかでも最も奥まつた地域であるから、岸辺住宅にエルピーガスが供給されても、周辺地域の工事負担金が割高になるわけがないし、また、投資効率が阻害されることもあり得ないと主張する。しかしながら、岸辺住宅が、その北部、東部及び南部に広がる住宅と一体の集落を形成していることは、前記認定のとおりであり、単に、岸辺住宅がその西端に位置することのみをもつて、周辺地域の工事負担金や、投資効率に影響を与えないということはできない。

(2) 次に、原告は、二四号線既設本管は、岸辺住宅を対象として敷設されたものではないから、その投資効率を考慮する必要はなく、本来五〇ミリメートルの管径をもつ導管で足りたはずのものを一五〇ミリメートルの管径をもつ導管にしたのは、大阪瓦斯の勝手な判断であり、考慮すべきでない旨主張する。確かに、前記認定のとおり、二四号線既設本管は、岸辺住宅を直接の対象として敷設されたものではないが、周辺地域の将来の需要に応ずることができるよう、一五〇ミリメートルの管径を有する導管が敷設されているのであり、供給区域内において一般的な供給義務を負うという一般ガス事業の性質に照らすと、二四号線既設本管が、岸辺住宅を直接の対象として敷設されたものでないということをもつて、二四号線既設本管の投資効率を考慮する必要はないということはできないし、一五〇ミリメートルの管径を有する導管を敷設したことを、大阪瓦斯の勝手な判断ということもできないことも多言を要しない。

また、原告は、二四号線既設本管の周囲には田畑が多数残つており、将来その開発需要が見込まれるから、二四号線既設本管の投資効率が全く無駄になるわけではないと主張するが、開発計画が具体化している等特段の事情のない限り、単に将来開発され得るという漠然とした見込だけで二四号線既設本管の投資効率が阻害されないということもできない。

(3) 更に、原告は、周辺地域の設定につき、岸辺住宅に隣接しているABCD地域に限るべきではなく、岸部北三、四、五丁目全体を周辺地域と考えるべきであるとも主張する。しかしながら、前記認定判断したとおり、被告がABCD地域を周辺地域とした判断が合理的な裁量の範囲を逸脱していることは認められないから、原告の主張は、被告の裁量権の範囲内における当不当をいうに過ぎず、失当というべきである。

(4) 被告の工事負担金の計算方法について、原告は、岸辺住宅が簡易ガスの供給となつた場合に二四号線既設本管から導管を延長してABCD地域にガスを供給する導管敷設方法では、一戸当たりの導管延長距離は五・八メートルとなり、これは大阪府吹田市の平均的年度における供給実績である一戸当たり一メートル未満と比較して非現実的であると主張する。しかしながら昭和五八年の実績が、一戸当たり五・六五メートルであることは、原告の自陳するところであるうえ、一戸当たりの導管延長距離は、その年のガスの普及内容によつて大きく異なり得るものであることは公知の事柄であり、他に特段の事情を窺うことができない本件にあつては、原告主張の平均的数値との相違をもつて被告の設定した導管敷設方法が、明らかに不合理であるとの根拠とすることもできない。

また、原告は、今日では導管敷設等の工事が消費者の負担で行われることはほとんどないから、工事負担金が割高になることを理由とすることは許されない旨主張するが、この点は、被告の審査としては、大阪瓦斯の一般ガス供給規程の性質上、右供給規程に従つてすれば足りるというべきところ、被告の審査がこれによつたものであることは前記認定のとおりであり、原告の右主張も理由がない。

さらに、原告は、現在、田畑として残つている部分の開発需要を考慮すれば、工事負担金の額は被告の試算以上に安くなる旨主張するが、開発計画が具体化している等特段の事情がない限り、将来の漠然とした開発需要を考慮に入れて工事負担金を計算する必要のないことは、前記判断したところと同様である。

(5) その他原告は、被告の、岸辺住宅及びABCD地域が、簡易ガス事業の開始によつて一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域に当たるとの判断の不合理性を縷々主張するが、これらはいずれも独自の見解であり、採用に由ない。

2 一般ガス事業者の適切かつ確実なガスの供給計画

(一) 一般ガス事業者たる大阪瓦斯の昭和六二年度供給計画には、岸辺住宅が、一一六戸、六二年との内容で、開発地区としてあげられていること、一方、岸辺住宅の建替えは昭和六三年三月に完成予定であつたこと、戸数は住宅一二四戸と集会所と処理場の計一二六地点との建替え計画であつたこと、及び発注者たる大阪府は、原告に対して簡易ガス事業によるガス供給を依頼しており、大阪瓦斯に対しては、一般ガスの供給依頼をしていなかつたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。

(二) そこで、岸辺住宅及びABCD地域に対する一般ガス事業者の適切かつ確実なガスの供給計画があるとした被告の判断の適否について検討する。

(1) まず、供給計画の存否については、前記のとおり岸辺住宅が大阪瓦斯の昭和六二年度供給計画に開発地区としてあげられていること、また、二四号線既設本管は、岸辺住宅及びABCD地域に対して一般ガスを供給する能力を有していること、及び供給区域内において一般的な供給義務を負うという一般ガス事業の性質から、岸辺住宅への供給計画は当然にその周辺地域たるABCD地域の需要をも想定していると考えられることは前認定のとおりであり、他方<証拠略>によれば、大阪府吹田市全体の都市ガス普及計画には、このような周辺地域の需要も含めた数値が記載されていると認められるから、これらの事実を合わせ考えると、一般事業者のガスの供給計画が存在するということができ、右認定に反する証拠はない。

(2) 次に、供給計画の適切性について判断するに、岸辺住宅が、住宅が連なり集落を形成している地域の西端に位置すること、岸辺住宅から約七〇メートル離れた地点に二四号線既設本管の末端が来ていること、岸辺住宅に一般ガスが供給されることになつた場合にABCD地域の消費者が負担すべき工事負担金の額は、五万五六〇三円であること、以上の各事実は1(二)で認定したとおりであり、<証拠略>によれば、岸辺住宅に一般ガスが供給されることになつた場合に岸辺住宅の消費者が負担すべき工事負担金の額は零であること、及び昭和六一年度における大阪瓦斯の他の供給地域の消費者が負担した工事負担金の額は平均して約七万三〇〇〇円であつたことがそれぞれ認められる。

以上の事実に照らし考察すると、岸辺住宅及びABCD地域の市街化の状況、二四号線既設本管からの敷設計画の相当性、他の地域の消費者との工事負担金の比較等の観点から、岸辺住宅及びABCD地域に対する一般ガス事業者のガスの供給計画は適切であるとした被告の判断は相当というべきである。

(3) さらに、供給計画の確実性について判断するに、前記のとおり、岸辺住宅から約七〇メートル離れた地点に二四号線既設本管の末端が来ていること、及び二四号線既設本管は、岸辺住宅及びABCD地域に対して一般ガスを供給する能力を有していることに照らすと、二四号線既設本管が、岸辺住宅及びABCD地域の需要の発生にすみやかに応じられるものとして、岸辺住宅及びABCD地域に対する一般ガス事業者のガスの供給計画は確実であるとした被告の判断は相当というべきである。

したがつて、岸辺住宅及びABCD地域に対する一般ガス事業者の適切かつ確実なガスの供給計画があるとした被告の判断は、相当と認められる。

(三)(1) ところで、これに対し、原告は、まず供給計画の適切性に関して、大阪瓦斯の提出した供給計画の内容は、「一一六戸・六二年」というものであり、これは現実の岸辺住宅の建替え計画と一致していないから、適切な供給計画とはいえないと主張する。

しかしながら、公営住宅建替事業については公営住宅法二三条の四で事業の施行の要件が定められているところ、公営住宅法施行令六条の五で、建築すべき公営住宅の戸数については、元の住宅が木造の場合にはその一・七倍以上なければならない旨定められており、<証拠略>によれば、大阪瓦斯はこの規定を根拠にして一一六戸としたことが認められる。また、<証拠略>によれば、岸辺住宅に対する供給計画には、供給開始年月として、昭和六三年三月との記載がなされている。したがつて、供給計画のなかに「一一六戸・六二年」との記載があることをもつて、右供給計画が事実と相違し適切でないということは到底できない。

(2) また、原告は、大阪瓦斯は、岸辺住宅を含む岸部北三、四、五丁目において、大阪瓦斯のガス供給区域となつた後も、過去数十年にわたつてガスを普及してこなかつたというマイナスの実績があるから、右供給計画は何ら適切あるいは確実なものとはいえない旨主張する。

しかしながら、原告の右主張自体によつても、岸部北三、四、五丁目は、単に大阪瓦斯の供給区域内にあるというに過ぎないのであるから、開発地区としての供給計画が出された時点においてする右計画が適切かつ確実であるかどうかという判断に際しては、原告の主張するような、長期にわたるマイナスの実績は考慮する必要はないというべきである。

(3) さらに、原告は、本件不許可処分の時点では、大阪府は、原告に対して簡易ガス事業によるガス供給を依頼しており、大阪瓦斯に対しては一般ガスの供給依頼をしていなかつたのであるから、具体的な発注依頼のない供給計画が確実な供給計画であるはずがないとも主張する。しかしながら、供給計画が確実なものであるか否かは、一般ガスの供給能力、工事能力等から判断すべき事柄であつて、具体的な供給依頼があつたか否かは右確実性の判断とは無関係であるから、原告の右主張も失当である。

3 ガス使用者の受けるべき利益の阻害の有無

(一) 簡易ガス事業の開始により、ガス使用者の供給計画の実施によつて受けるべき利益が阻害されるか否かの判断基準としては、まず、供給地点につき、当該簡易ガス事業の開始によるプラス及びマイナス面を、次に、供給地点以外の地域であつて一般ガス事業の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域につき、当該簡易ガス事業の開始によるマイナス面をそれぞれ消費者利益の保護の観点から検討し、最後に、当該地域全体について以上の検討をもとに、当該地域全体における現在及び将来の消費者利益に資することのより大きいガスの供給方式のあり方について、総合的に判断するべきである。

(二) そこで、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始されることにより、ABCD地域の消費者の受けるべき利益が阻害されるとした被告の判断の適否について判断する。

(1) 被告は、右判断に当たつて、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始された場合と、一般ガス事業が開始された場合のそれぞれにおいて、ABCD地域の消費者が一般ガスの供給を受ける場合の工事負担金の額を比較する方法を採つているが、消費者利益保護の観点からは、工事負担金の増加の程度及び一般ガス供給時期の遅延の程度を考慮すべきであるから、被告の採用した右方法は相当として是認すべきである。

この点について、原告は、右方法では「一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある」かどうかの判断と同じになり、法が別の要件を設定した意味がなくなる旨主張する。しかしながら、一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域か否かの判断は、工事負担金の額の比較のみに基づいて行われるものではない(このこと自体は原告も自陳するところである。)うえ、本件申請の許可要件について、法が消費者利益阻害の有無とともに一般ガス事業者の事業の遂行に支障を及ぼすおそれがある地域の存否を別個の要件としながら、その考慮要素の主要なものが重複するとしても、そのことは格別異例な事柄ともいえない。所論は、採用できない。

(2) 右工事負担金の額は、岸辺住宅に一般ガス事業が開始された場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、五万五六〇三円となり、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始された場合にABCD地域の消費者が負担すべき額は、二四号線既設本管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、一七万一三七〇円となり、岸辺住宅の周辺に敷設されている他の導管からABCD地域に一般ガスを供給した場合には、それ以上の額になること、それゆえ、岸辺住宅に本件簡易ガス事業が開始された場合には、ABCD地域において一般ガスの供給を受ける場合の消費者の工事負担金が相当割高となるとの被告の判断が相当であることは、1で認定判断したとおりである。

したがつて、岸辺住宅に一般ガス事業が開始された場合には、ABCD地域の消費者は、一般ガスの供給を希望する場合には容易に一般ガスを選択することができるが、反対に、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始された場合には、ABCD地域の消費者は、一般ガスの供給を希望する場合であつても、そのための工事負担金は相当高額となり、事実上一般ガスの供給を受けることを断念せざるを得なくなることが予想されるとして、岸辺住宅へ供給するガス体エネルギーの選択として、簡易ガス事業の開始を許可することは、ABCD地域における一般ガスの普及を相当長期間遅らせることになり、それゆえABCD地域の消費者が供給計画の実施によつて受けるべき利益が阻害されるとした被告の判断は、相当と認められる。

(三)(1) ところで、これに対し、原告は、消費者利益の阻害の有無を判断するに際しては、大阪府の施策方針を尊重すべきであり、大阪府が、消費者の利益保護を十分検討したうえで簡易ガス事業を選択した以上、被告は右選択に従うべきである旨主張する。

しかしながら、被告としては、右施策方針になんら左右される根拠はなく、原告の主張は独自のものであつて失当である。

(2) その他原告は、被告の、岸辺住宅に簡易ガス事業が開始されることにより、ABCD地域の消費者の受けるべき利益が阻害されるとの判断の不合理性を縷々主張するが、これらはいずれも独自の見解であり、採用に由ない。

三 法三七条の四第一項四号について

1 簡易ガス事業の開始によつて、その供給地点についてガス工作物が著しく過剰となるか否かの判断基準としては、請求原因3(二)記載の(イ)(ロ)(ハ)の各基準によるべきである。

2 そこで、本件申請を許可すると、岸辺住宅においてガス工作物が著しく過剰になるとの被告の判断の適否について検討するに、岸辺住宅から約七〇メートル離れたところに、二四号線既設本管の末端が存在すること、及び二四号線既設本管は、現供給戸数のほか、さらに約四三〇戸にガスを供給する能力を有していることは、二1(二)(2)で認定したとおりであるから、二四号線既設本管は、現時点においては、岸辺住宅及び岸辺住宅に近接する周辺地域を対象とする導管であると解される。また、<証拠略>によれば、大阪瓦斯の工事能力からみて、岸辺住宅及びその周辺地域において一般ガスの需要が発生した場合、大阪瓦斯がすみやかに延長工事を行つて、一般ガスの供給を行うことができるものと認められる。

したがつて、本件においては、請求原因3(二)記載の(ハ)の基準、すなわち、一般ガス事業者が供給地点を対象とする主要な導管を既に敷設しており、供給地点における需要の発生に応じて、すみやかに支管及び供給管を敷設してガスを供給することができる場合については、多くの場合、「ガス工作物が著しく過剰」となる、との基準に該当するものといえるから、本件申請を許可すると、岸辺住宅においてガス工作物が著しく過剰となるとの被告の判断は、相当であると認められる。

3(一) これに対し、原告は、右基準においては、「多くの場合」ガス工作物は著しく過剰となるとされているのであるから、さらに具体的事情が付加されねば著しく過剰とは判断されない旨主張するが、むしろ右基準に当てはまる場合であつても、何らかの他の具体的事情が存するような場合には、なお、著しく過剰となるとはいえない場合もあると解するのが、右基準の文言にも合致するものと考えられるところ、本件においては、そのような具体的事情は見受けられないから、被告の判断には、何ら不合理な点は存しないというべきである。

(二) また、原告は、被告主張の判断手法は、法三七条の四第一項三号にいう供給計画の確実性の判断方法と全く同一であり、同項四号の許可基準を独立の要件とした意味がない旨主張するが、右各要件は、一般ガス事業と簡易ガス事業の調整のため、簡易ガス事業の許可の申請につき、異なつた角度からその適否を検討するために設けられたものであり、右各要件に適合するか否かを判断する際に考慮すべき事項が常に一致するものではないことは多言を要しないところであるから、本件において、たまたま右各要件の判断に際して考慮した事項が一致ないし共通していたことのみをもつて、その判断方法が不合理であるとはいえないことは明らかである。

所論は、失当である。

四 法三七条の四第二項について

法が、同項において、一項三号及び四号の規定の適用について、地方ガス事業調整協議会の意見を聞かなければならない旨定めており、その趣旨が、処分の公平かつ慎重を期し、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保しようとしたものであることは明らかである。

そこで、右のような地方ガス事業調整協議会の有する役割に鑑みると、被告が右協議会に諮ることなく処分をなした場合はもとより、右協議会の諮問を経た場合においても、右協議会の審理、答申の過程に重大な法規違反があることなどにより、その答申自体に法が右協議会の諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵が存する場合には、これを経てなされた処分も違法として取消しを免れないものと解するのが相当である。

しかしながら、本件においては、被告が、近畿地方ガス事業調整協議会に対して、岸部地域の近くに来ている低圧導管の記載された地図、並びにA地域及びABCD地域全体について、工事負担金を比較した計算書を配布したことは、原告も自陳するところであり、また、準則四条に基づき、「当該事案に利害関係を有するもの」に出席し、意見を述べることを求めるか否かは、会長の裁量に委ねられている事柄であることをも合せ考えると、原告所論の瑕疵なるものは、法が地方ガス事業調整協議会の諮問を要求した趣旨を没却するような瑕疵とはいえないことは明らかであり、その他この点の瑕疵を窺うこともできないから、原告の主張は理由がない。

五 したがつて、本件不許可処分は、実体的判断においても、また、審理手続上においても、なんら違法なものとは認められない。

第四結論

以上によると、原告の本訴請求のうち、<1>被告に対し原告が岸辺住宅に係る簡易ガス事業を営むことの許可を訴求する部分は不適法なものとして訴え却下を免れず、<2>本件不許可処分の取消しを訴求する部分は理由がなく請求棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 田畑豊 園部秀穂 田中健治)

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